欠田誠のマネキンの世界
第9話 顔の造形

 人の顔の形はそれぞれ異なっており、更に時々に異なった表情があり千差万別です。

 しかし自分の作る顔はどうして同じような顔になってしまうのでしょうか。自分では今までと違った新しい顔が作れたと思っても、他の人が見ればやはり私が作った顔で、それほど変わったものには見えないらしい。

 自分の好みや価値観はそれ程変わるものではないということでしょうか。

 作者の個性や癖は同時に現れるものでそれは決して否定されるものではないと思いますが同じような顔の中でも良い顔が作れることは,更にまれな事です。

 人の顔にはその人の全てが現れます。制作のテーマとして人の顔はとても興味深い素材です。

PALヤングマンシリーズ

 彫刻家が肖像彫刻を制作する場合、モデルの顔かたちを正確に作ろうとする以上にその人の人格や内面の世界を表現しようと思うでしょうし、また彫刻として顔という造形物がそこに存在する空間の広がりや魅力を表現したいと思うでしょう。優れた作品からはそれらを感じる事が出来ます。そんな肖像彫刻に接した時、「本人以上に本人を感じる」とか「怖いほど本人に似ている」とか言えるのだと思います。

 マネキンの顔にモデルはいるのでしょうか、制作するテーマによってモデルとそっくりの顔のマネキンを作る場合いもありますが(ヨーロッパのアデル社が制作したツイギーマネキンや七彩が制作したPALと言うスーパーリアル・マネキンのシリーズなど)一般的には個人のモデルの顔と言うよりは、その時代の好みの顔を創作すると言えます。

 今日テレビなどに良く登場する若い女性たちや女性誌の表紙を飾る女性たちには、それぞれ共通した特徴があります、更に化粧なども共通したところがあり同一女性のように見えることすらあります。(体形にも同じような特徴があります)

 そんな顔の資料をもとに、その顔でいかに時代性を表現するかと言うことがマネキン制作のテーマになります。

 日本女性は近年とてもチャーミングな女性が多くなりました、身近な女性達の魅力を表現する事によって世界をリードするマネキンを作ることも可能な時代になったと思います。

 しかしミセスのマネキンのモデルや、特にハイファッションに対応するマネキンの制作となると西欧の女性をモデルに選ぶことが多くなります。

 掲載の写真は 七彩で目を開いたままで顔を型取りする技法(FCR技法)を開発し、その技法を使ってPALというスーパーリアル・マネキンを制作した時の例です。

 1970年代はマネキン・ディスプレイ界にとって大きな変化の年でした、戦後の団塊の世代がファミリーを形成するニューファミリーの時代を迎え、ライフスタイルを視覚的にリアルに演出するという新しいディスプレイが指向された時代背景もあって、PALは新しいマネキンの出現として海外からも注目され、PALの時代がしばらく続きました。
写真上より:
 ・FCR技法でモデルの表情をそのまま型取りした顔の原型
 ・1974年 七彩工芸(現・七彩)時代 制作
  スーパーリアル・マネキンPALヤングマンシリーズ より
  写真撮影 筆者