欠田誠のマネキンの世界
第10話 マネキン写真集の紹介

Doll‘s House

 『春田佳章写真集 Doll's House 魅惑の異空間』が日本カメラ社から出版されました。

 春田佳章さんは今年75歳 神戸在住の写真家で、1958年 神戸新聞読者写真コンテスト年度賞1位 1960年 朝日カメラ年度賞(モノクロの部)1位 などを受賞、個展や数々の企画展、朝日カメラ誌上などで作品を発表してきました。一方、写真家を志す若い人達の育成に努めるなど、精力的に写真活動を続けて来ました。 更に次の個展に向かって生涯現役の意欲を燃やしておられる写真家です。この度の写真集に私が序文を書かせていただきました。今回はそれを紹介させていただきます。


春田佳章写真集に寄せて


Doll‘s House

 マネキンは服を着せるためのものであり、特別な場合以外、マネキンが裸の状態で展示される事はありません。マネキンの美は服を着せる事によって完成する美だと言えます。とはいえ、裸の形(素の造形)が魅力的に作られていなくては服を美しく表現する事は出来ません。原型制作は、たとえ服を着せれば隠れてしまう部分であっても精魂込めて創ります。マネキンの造形は人体の美しさ、魅力を表現すると言う意味では人体彫刻と変わりません。ファションの世界と深いかかわりを持ちながらモードの世界で生きるマネキンの容姿は、時代の好みに敏感に反応し変化し、常に時代の好む顔や体形を、そのひとがたに表現して来ました。

 マネキン会社の倉庫には、夥しい数の裸のマネキンが,ところ狭しと並べられています。これら装わない素のマネキン達の集う倉庫には、流行の衣装をまといスポットライトをあびて華やかに装うディスプレーの場などでは見られない、異なった別の魅惑的な空間があります。

Doll‘s House

 1966年、ふとしたきっかけから、あるマネキン会社の配集センターでマネキン人形を見る機会を得た春田さんは、 薄暗い倉庫の中の裸の美女達(マネキン)の美しさに息を呑む思いをしたのが最初の出会いでした。以来マネキンの魅力に取り付かれてマネキンの撮影を始めたと語っています。

 以来40年以上過ぎた今日、マネキンもずいぶん変わりました。倉庫は近代化が進み、照明は明るく均一化され、マネキンの商品管理にはコンピュータが導入されるなど倉庫のより効率的活用が図られています。それだけに被写体として、ドキッとするようなショッキングな光景に出会うチャンスは少なくなったと思います。一方多様化されたニーズの変化に伴い、いろいろな異なったタイプのマネキン達との出会いが増えたのではないでしょうか。

 日本のマネキン業はレンタルシステムで成り立っています。倉庫には、生産工場から納品される新作マネキン、市場で役目を終えて返送されるマネキン、修理のために運び込まれる傷ついたマネキン、リメイクされたマネキンなど、商品としてのマネキンの一生の縮図を見る事が出来ます。レンタル業における倉庫は物流の要であり企業秘密の場でもあり関係者以外立ち入りを許されない場所です。

Doll‘s House

そこを撮影する事は企業の理解と協力がなくては不可能な事です。8社ものマネキン会社の倉庫を撮影できた事は全く異例の事で、春田さんのマネキンを愛する一途な思いやマネキンの魅力をカメラで残し次の時代に伝えたいと言う使命感ともいえる強い思い、更に氏の作品の優れた芸術性が理解され、企業の好意的な協力が得られたのだと思います。

 この度出版に際し写真の原稿を拝見して、モノクロ写真の美しさを改めて感じました。素のマネキンの魅力をモノクロの効果が見事に引き出していると思います。見て楽しいばかりではなく、資料としても貴重な写真集だと思います。
写真:
 ・『春田佳章写真集 Doll's House 魅惑の異空間』(日本カメラ社)より
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