欠田誠のマネキンの世界
第14話 マネキンの顔の造形

スーパーリアルタイプスカルプチャータイプ

 制作の現場に居て、ボディーや顔の無いマネキン全盛の時代が変わってきたということことを実感しています。昨今あまり聞かれなくなっていた※VMD(ビジュアルマーチャンダイジング)を耳にすることも多くなってきました。VMDを実践していくためにマネキンは重要不可欠な存在です。

透明樹脂によるマネキンの顔

 顔のあるマネキンの需要がふえてきました。不況時にはマネキンが減ってボディーが多く使われるといわれます、確かにディスプレーはある程度物や心にゆとりが無いと育たないものだと思います。しかし物が売れない時こそ、もっと売るための努力(ディスプレー)が必要な事も事実だと思います。私はその背景には、他店との差別化、個性化、そして多様化を求める市場のニーズの変化にマネキンの開発が追いつけず、使えるマネキンがなかった事が大きな要因であったと思います。

 商品の効果的な見せ方について、置くより 吊るせ、吊るすより 着せろ、という教えがあります。ボディーはそれに応えるものです。

 ヘッドレスマネキン(顔の無いマネキン)はボディー展示よりファッションのイメージやコーディネートの効果を表現する事が出来ます、顔がないために年齢やブランドイメージを限定する事がなく広く対応でき、無難で使いやすいため数多く使われていますが、商品や店の特徴を伝えるためのディスプレー効果にはあまり期待する事は出来ません。

アート性の強い表現を意図したマネキンの顔

 顔のあるマネキンは年齢やイメージを強く表現しますのでイメージに合ったマネキンを使えばとても効果的で優れたディスプレー効果が期待できます。それだけに、ちぐはぐなマネキンを使えばマネキンを使う事がかえってマイナスの効果になってしまうでしょう。その選択の重要な基準はほとんどマネキンの顔にあると思います。マネキンの顔はとても重要な役割を担っています。

 原型作家にとって顔の造形はとても興味深く楽しい作業です。ニーズの多様化に応じていろいろな顔の造形にチャレンジできる事はマネキン造形の魅力でもありますが、然りとて、いろいろな顔をそれほど器用に自在に作り分けられるものでは有りません。自分では気に入った顔が作れたとしてもそれが使う側のニーズに合っていなければ使われないわけで、それにどんな良い顔であってもマネキンの顔は顔だけ単独で使われる事はなくボディーと一体化することによって顔として機能するということが彫刻における顔の造形と異なるところでしょう。マネキンの顔は原型の造形にメークを担当する彩色、更にヘアーデザイナー達との共同制作によって完成されます。必ずしもリアルな顔ばかりでなく、半抽象的な様式の顔であったり、抽象的な様式の顔であったり多様な表現がありますが、それらは常に今の時代が好む顔、様式の創作でなければなりません。時代の好みは常に変化します。マネキンの顔は時代を如実に語っています。

 市場のニーズが多様化し、個性化していることは、それだけマネキン造形の可能性や造形の選択肢が広がっている事で、それは、いろいろなタイプの造形作家がマネキン創りに参加できることでもあり、更に、異なった分野の人達とのコラボレーションによる新しいマネキン造形の可能性もあり、楽しみな事でもあります。近年マネキン企業で原型作家の新人の採用が活発化していることは嬉しい事です。これからは企業内における魅力ある有能なディレクターの有無が鍵を握るでしょう。

 私はマネキンの開発はもっと積極的な行為だと思っています。需要に応えていく以上に需要を喚起するものでなくてはならないと思っています。

※ 「VMD」は、アメリカで生まれた企業戦略であり、1970年代後半から80年代初めにかけて、ブル−ミングデ−ルズなどの百貨店が低迷していた頃、店舗間のポジショニングを明確に確立し、他店との差別化を狙うために導入された戦略である。
(『ビジュアルマーチャンダイザー』早乙女 喜栄子 著 繊維新聞社 より)
写真上より:
 ・(リアルタイプ マネキンの顔)
  1 スーパーリアルタイプ マネキンの顔
  2 スカルプチャータイプ マネキンの顔

 ・(抽象表現タイプ マネキンの顔)
  3 透明樹脂によるマネキンの顔
  4 アート性の強い表現を意図したマネキンの顔
    素材・セメント FRP 亜鉛版 に透明樹脂による義眼

 原型制作・写真提供 欠田 誠