欠田誠のマネキンの世界
第18話 マネキンのヘアー(スカラプチャーヘアー)の話

PWS・PMSシリーズ

 かつて、レアルマネキンは、同一ボディーに、人毛タイプのかつら(ナチュラルヘアー)と人体彫刻と同じようにヘアーまで原形制作するスカルプチャーヘアータイプのマネキンと、2タイプのマネキンを揃えるのが一般的でした。当時はスカルチャータイプが、より多く使われていた時代でした。今日ではディスプレーに使われるマネキンはナチュラルヘアータイプのマネキンの方が多く使われているようです。双方にはそれぞれ独自な良さがありますが同時に其の逆もあるわけで、スカルプチャーヘアーはヘアーが乱れる事がなく扱いやすいと言うメリットがありますが、作り付けのため、ヘアーデザインを自由に選択する事が出来ない不便さがあります。

 話は変わりますが、マネキンの手先は塩化ビニールで作られています。塩化ビニールは丈夫で柔軟性があるので壊れにくく、マネキンには都合の良い素材ですが、金型による製法であるため金型の費用やそれまでのプロセスに大変費用と時間がかかりますので大量生産にはメリットがありますが、多品種少量生産、更にスピードが求められる今の時代のニーズに対応するには、コストや納期にかなり無理があります。

PWS・PMSシリーズ

  写真(1)のマネキンは、1970年に軟質のポリエステル樹脂の存在を知ったのを機に、軟質の樹脂を使って、髪形の造形や手先を作ることによって、手作業で塩化ビニールに変わる作品をつくり多品種少量生産に対応しようとの思いで制作したマネキンです。

 

 軟質樹脂製の製品は塩化ビニール製より強度では劣るのでレンタルに対応して何度も繰り返し使用されると破損する事が多いという難点がありました。

 レンタルシステムでのマネキンの扱いは今でもあまり変わりませんが、マネキンの運搬、移動、(頻繁に行われるマネキンの搬入,搬出)服の着脱、ウインドウ内での高温、など、愛情を込めて入念に仕上げられた美女達も、ビジネスの現場では予想以上に過酷な状況に耐えなくてはなりません。

 然し丁寧に扱えば軟質樹脂製のかつらや手先も十分商品として通用するものだと思っています。私は当時の作品を一部持っていますが35年以上経た今日でも変質や変形は無く当時の状態を保っています

 柔軟性のある素材でスカルプチャーヘアーを作ることによって同一モデルのマネキンにいろいろなスタイルのヘアーを被せる事ができる、時にはナチュラルヘアーにも対応できると言う試みは、関心を持たれ、新しいシステムとして認知されたようです。

FS-350シリーズ

 その後、塩化ビニールでスカルプチャーヘアーを作る製法の研究が進められ1989年に(株)トーマネで塩化ビニール製ヘアーのマネキン(写真3・4)の開発に成功しました。当時はイラストを厚い板で切り抜いたような板マネキンが流行った時代でした。このマネキンも肉厚をかなり薄く作り このシリーズ名をフィーノ(スペイン語で薄いと言う意味)としました。

 金型の制作にはかなりコストがかかるので6体のマネキンに対してかつらは3種とし、それぞれに互換性を持たせて6体のボディーに対応できるようにしました。

 今日の市場で求められているマネキンの役割を思うとき、あまり高価格なマネキンの開発は、そぐわないと思います。だからこそより付加価値の高い独自で魅力的なマネキンの開発に努めなくてはならないと思っています。
写真上段より:
 1)PWS・PMSシリーズ 1971年(七彩時代)
   ヘアーと手先は軟質ポリエステル樹脂で制作
   軟質樹脂は柔軟性があるので落としても壊れにくい
   71 七彩展にて 1971年NADIショー(ニューヨーク)出品
 2)ヘアーのデザインは 女4タイプ 男1タイプ 素材は軟質のポリエステル樹脂
   柔軟性があるのでどの頭にもかぶせる事が出来る(互換性)
   好みのデザインのかつらを選ぶ事が出来る
   写真提供・原型制作 筆者
 3)FS-350シリーズ 1989年(トーマネ時代)
   ヘアーの素材は塩化ビニール(金型による手先の生産と同じ工法)
   ヘアーデザインは3タイプ
 4)6体のポーズに3タイプのかつらを、それぞれ選んで被せ換えることが出来る
   写真は其の1例
 写真 トーマネ カタログより・原型制作 筆者