欠田誠のマネキンの世界
第19話 倉庫での 裸の美女達(マネキン)

Vientoシリーズ

 マネキンは服を着せるため、サイズやポーズなど多くの制約の中で作られます。更に製品の段階では服の着脱を容易にするために胴の部分、腕、手先、ポーズによっては足が取り外せるように作られています。このように1体のマネキンが各パーツに分かれている事は倉庫でのマネキンの保管スペースを有効に活用できる事でもあり倉庫でのマネキン達は腕や手先などがはずされた状態で置かれており、一見、無造作に置かれているように見えるかも知れませんが、実はマネキンの在庫管理をしている人達の思惑通りに、きちんと整理されて並べられているのです。制作年順に、あるいは商品の稼働状況を勘案して、出庫されるクライアント別に、等、出荷業務の人達の仕事がしやすいように時には配置換えをしたり、常に営業と連動して限られたスペースを有効に使う工夫がされています。

 倉庫では、華やかなディスプレーの場では見られない異なった独自なマネキン達との出会いがあります。そんな倉庫のマネキンはカメラの被写体として興味をもたれ写真家の作品として発表される事も少なくありません。その多くは、腕やかつらの無い不気味な人形たちの世界を強調した写真や、エロスの対象として表現したものが多く、原型を制作している私の好みでは無いこともあって、あまり関心がありませんでしたが、倉庫でのマネキン達の魅力を私に気づかせてくれたのは、倉庫での裸の美女たち(マネキン)に魅せられて実に40年以上その美をモノクロ写真で追い続けた神戸の写真家 春田佳章さんとの出会いでした。氏は街のウインドウなどで飾られた完成されたマネキンにはそれほど関心は無いそうで、倉庫での予期せぬマネキンとの出会いに胸を躍らせて撮影に出かけるとの事です、そして彼女たちと実際に対話しながらシャッターを切る。そんな情念が氏の作品に現れています。時にはエロチックであったり時にはミステリックであったりしますがそれが実に美しい。マネキンは元来そのような要素を持った造形だと思っています。春田さんはマネキンに対する知識が豊富でマネキンを見る目がとても厳しく、「写真は残念ながら良い被写体に出会えなければ良い写真はできない」と言われた事が印象に残っていますが、氏が言う良いマネキン(被写体)とはどんなマネキンでしょうか? 私達原型作家は服を着せた状態やディスプレーの状態を想定して原型を作りますが倉庫でマネキンを見られることを意識してマネキンを作る事はありません。しかし腕が無くても、かつらが無くても、メークが無くても魅力的なマネキン。私はそれを(素の造形)の魅力と呼ぼうと思います。マネキンはその用途から制約の多い造形ですが、サイズやデッサンなど完璧に作られたからといって良いマネキンとは言えません。それは完璧で隙が無い人は面白味が無く付き合いずらい、どこかぬけたところ、味がないと、魅力が無い。マネキンにも同じことが言えると思います。

春田佳章写真集

 マネキン作家はファッションに敏感でなくてはならないし、流行にも敏感でなくてはなりません。しかし原型を作るときには、ボディーに服を着せる事や顔にメークをする事など、いっさい考えず、魅力あるボディーに服を着せれば服は魅力的に見えるという信念で、ひたすら(素の造形)の魅力を追求してみたと思っています。
写真上段より:
 1)Vientoシリーズ 1992年(トーマネ時代)
  ・撮影 西澤孝雄 ・原型制作 内田広利、欠田誠
 2)Vientoシリーズ制作風景 (トーマネアトリエにて)・撮影 筆者
 3)左:マネキン会社倉庫でのVientoシリーズ
   春田佳章写真集(魅惑の異空間)より
   右:PWS−54  1970年代 七彩時代
   春田佳章写真集 (魅惑の異空間)より ・原型制作 筆者
  『手を上に上げているような特殊なポーズは、腕がはずされていても腕のポーズはある程度想像することができる』