欠田誠のマネキンの世界
第20話 手のはなし
 人の手は、顔、同様にそれぞれ個性があり、手にその人の人生、人柄が表れています。女性の何気ない手にしぐさに、えも言われぬ色香を感じる事がありますし、また長年作ることで培った節くれ立った職人の手に技の確かさを感じます。そして5本の指が表す表情はとても雄弁です。マネキンは服を着れば見えるところは顔と手だけ、ということも有りますがマネキンの造形で手の表現はとても重要な部分です。欧米のマネキンに比べ日本のマネキンは手の造形が弱いと言われますが、私達は日常、人との会話などで手を使って表情豊かに意思を伝える生活習慣が無く、手の表情にそれほどの関心を持っていなと言う事でしょうか。マネキンの手は一般の人体彫刻の手とはかなり違った要素をもっています。マネキンの手は美しいだけでなくディスプレイのため、バッグを持たせられる手のポーズや腰に手を当てたポーズ、ポケットに手を入れたポーズなどがあります。この場合必ずバッグを持たせるとは限らないので、そんな時でも不自然で無いようなポーズを作らなくてはなりません。
私は、手はとても興味深い素材だとおもっています。

1970年代にはリアルなマネキンのほかに縫製用ボディーの需要がメーカーや専門の学校 などで高まり、マネキンメーカーも用途に応じた素材(ピンが刺せるウレタン素材など)の工法や可動出来る腕や手先の研究などが積極的に行われました。それは今日、多く使われているボディー・トルソ・抽象的なマネキンの開発の基礎に生かされています。写真の手先はその頃フランスで作られた、ボディーのための手先で、手首と指を可動させていろいろなポーズを作ることができます。
これは木彫作家の手作りによるもので、指の関節は全部が可動するわけではありませんが女性のしなやかな指の美しさを見事に表現しています。今日広く普及している可動手先の源流とも言える作品です。

今、最も多く使われている可動タイプの手先です。腕から肘、手首が可動するように作られており使う側の意図によっていろいろなポーズ作りが可能です。
ろくろなどを有効に使って作るので工業生産的な形状が特徴です。
ほぼ同じ形のものが樹脂(金型生産による塩ビ製)で作られ、それは軽くて丈夫でコストも安く海外でも多く使われています。

マネキンを造形するうえで手はとても重要な部分です。実際に製作の過程で手をどのようなポーズにするか、どのような表現にするか、迷う事も多く、自由に手のポーズが変えられれば便利だろうとの思いから可動するシステムが考えられたわけですが実際に良い表情を作る事はとても難しい事で。売り場でこの可動システムが効果的に生かされている例はあまり見かけないというのが現状です。ポーズ創りに関しては自由はかえって不自由につながると言えると思います。
そんな思いから、手の表情は固定して手の角度だけ上下左右に変えられるように作ったのがこの手先です、1995年、ヤマトマネキン時代に山本幸夫さんと共同で「ストラクトシリーズ」と言う半抽象スタイルのマネキンを開発した時に作ったもので、使いやすくてポーズも決めやすいと言う評価を得、その後もこの腕手先だけが一人歩きして他のマネキンやボディーにも使われ、今日でも市場で見る事ができます。

2〜3年前から半抽象的なスタイルのマネキンが多く使われています。
1970年半ば以降80年にかけて海外のマネキンが多く導入されて日本の市場を賑わし時期がありました。ヨーロッパのシュラッピー・マネキンが、一時期、日本市場で使われましたがその後すっかり使われなくなったものが再び、市場に登場し、むしろ以前より多く使われてブームになっている珍しいケースです。この手先はこれ等の様式のマネキンに多く使われているもので、手のポーズは大胆でインパクトがありますが、印象は優しく、柔らかで、温かみを感じます、今の時代に求められる所以だと思います。

リアルタイプのマネキンに一般的に使われているタイプの手先です。以前に比べ近年では手の血管や皺などがあまりリアルに作られていないものがより好まれるようです。