欠田誠のマネキンの世界
第21話 手のはなし(その2)

 人体彫刻の中でも手の表現は特別の意味を持っています。手のポーズ(表情)は形の美しさだけでなく、それぞれの思いを伝えるコミュニケーションの道具でも有ります。そんな手の形を造形に生かした彫刻と、しゃべりすぎる手の表情を極力避けようとする彫刻があるように思います。ロダンの彫刻には手の表情を重視した文学的な表現を見る事ができます。

 更に、手は両手を組み合わせることによって新たな空間が生まれますし、何かに手を添える事によって新しいドラマが生まれます。

 マネキンの手について話を進めましょう、今日のマネキンはFRP樹脂で作られていますが、手だけは手首から4〜5センチの位置で切断され腕から取り外しが出来るようになっており、塩化ビニールで作られています。細い指などは最も破損しやすい部分ですが、塩化ビニール製であることで落としても簡単には折れたりすることはありません。マネキンは服を着せ替える度に腕や手の取り外しが頻繁に行われますので、破損する事も多いのです。マネキンがファイバーで作られていた頃の手先は本当に良く折れたものです。マネキンは胴、肩、手先、ポーズによっては足が取り外せるように作られていますが、全ては服の着せ付けを容易にするためのものです。

 手にはいろいろなポーズがありますが、実際に、市場で数多く使われるポーズは数種類に限られています。したがって好まれるポーズの手先は同じ手先が異なったマネキンの多くの腕に使われています。人体彫刻でモデル以外の人の手を流用する事は考えにくい事ですが、これはマネキンの特徴の一つだと言えるでしょう。マネキンの手を作る場合、ボディーに関係なく、手の美しいモデルを探すのが一般的です、ボディーや顔の美しい人が手も美しいとはかぎらないものです。

 かつて、手を作る事は予想以上に時間のかかる大変な作業でした、今は良いモデルが見つかればその手を簡単に型取りが出来ます(FCR技法)のでそれをもとにして思うような形に改造、修正する事で原型を作る方法が一般的になっているようです。出来た原型を塩化ビニール製の製品に加工するためには、原型を型取りして蝋を流し込んで蝋製の原型を作りそれにメッキを厚めに施し、後、蝋原型を熱で溶かして除去することで量産用の金型が出来上がります。型に溶かした原料を注入し、完全に硬化する寸前に型から取り出して、塩ビ製の手先が完成します。元の原型を蝋に置き換えた時と、塩化ビニールに加工した時にそれぞれ収縮があり、今の工法では、2工程で約4パーセント収縮します。しかも収縮率は細い指や、太い手首や、薄い手の平などで微妙な違いがあります。そのような事を想定して、あらかじめ大きく原型を作る事は意外にむつかしいことです。

いろいろな手を作って感じる事は、手の表情はとても豊かで、強い表現力を持っているということです。同じ握ったポーズの手でもゆるく握った手は優しくファッション性がありますが強く握り締めた手からは強い意志を感じ攻撃的な迫力を感じます。更に手首の角度によってまた違った空間が生まれます。マネキン造形で手の表情はとても興味深いテーマだと思っています。
写真上段左より:
 1)強く握り締めている手は強い意志を感じさせる
   両手を組み合わせることで攻撃的な迫力を感じさせる
   スポーツマネキンのために作った手
   筆者 作
 2)左右の手を組み合わせることで優しい表情が強調される。
   筆者 作
 3)両手を握り締めた手のポーズ
   これは同じ人の左右の手だがこれが男女の手であれば
   全く違ったドラマ、空間が生まれるだろう。
   筆者 作
 4)女性の左手
   FRP樹脂(95cm×40cm)
   筆者 作

(写真撮影 筆者)