欠田誠のマネキンの世界
第29話 人体の造形 素材と彩色

獏と花婿の行方

 彫刻作品の表面に色を塗る事は其の材質、素材感を消す事でもあります。
 然し彫刻は実在のアートとも言われてきました。素材独自の良さを生かすこと、彫刻家は木や石や金属や焼き物(テラコッタ)などの素材に対する感性が豊かで、強いこだわりを持っているものです。美術学校ではそれぞれの素材を使っての造形を学び今日ではFRP樹脂の技術も学ぶことが出来ます。それらの体験を通して素材の特徴を知り自分に合った素材を選択して自分独自の表現を模索する事になります。
 話を戻して、私が美術学校の頃(1957年京都美大・卒)最初に彫刻に色を塗る事を知ったのは(学んだのは)石膏の作品に色を塗ってブロンズで出来た作品のように仕上げる技術でした。ブロンズにするにはかなり制作費が掛かるので着色でブロンズに見えるように仕上げるのですが、この着色は先ず石膏の素材感を消すことから始まります、ブロンズ調に仕上げる着色技術はとても奥深く各自が工夫をして、いろいろな着色方法があったようですが、お互いに手の内は明かしたがらなかったようです。この方法は今でも多く使われています。いつの時代でも・らしきもの・を作る行為にはなんとなく後ろめたい暗さが付きまとうのでしょうか。

 現代美術の着色の考え方の多くは、形に彩色をする事によって更なる表現を可能にすることだと思います。マネキンはFRP樹脂で作られていますが最後の仕上げは全体にサフェッサー塗料を吹き付けて仕上げます。このつやの無い不透明な塗料を塗る事でFRP樹脂での仕上げの状態が確認できる事と其の上に塗る塗料の接着を良くすることが出来ます。更に肌の色を塗装するのですがこの色は各メーカーによって微妙に異なり、数種類の異なったメーカーのオリジナル肌色を持っているのが普通です。

Nomi Ho !

服を着ればほとんど見えない部分ですが、色やつやの微妙な違いによって季節感や年齢やトレンド感を表現するために肌の色はとても重要な役割を持っています。マネキンは出荷(日本のマネキン業はレンタル制が基本になっています)の度にいろいろな肌の色に吹き変えられますので良く使われるタイプのマネキンは破棄される頃にはいろいろな色が重なって5mm以上もの塗料の層が出来ている事も珍しくありません。

 人体彫刻に彩色が多く使われるのは現代彫刻の特長ですがそれは彫刻の素材の選択肢が増えたことで表現の可能性が広がり同時に従来の彫刻、フィギュア、人形、マネキン、などの境界があいまいになっている事でもあると思います。
 ミケランジェロ(1475〜1564)のルネッサンス期は大理石の時代、ロダン(1840〜1917)やマイヨール(1861〜1944)などの近代彫刻期は塑造によるブロンズの時代 そして現代は、いろいろな素材が使われるミックスメディアの時代と言えるのではないでしょうか。

 掲載の作品写真の作家、中村道彦、野原邦彦、両君は私と一緒の職場でマネキンの原型を制作している若い作家です。ともにマネキン制作に励みながら、創作活動を続け展覧会で作品を発表しています。写真1の作品はFRP樹脂製でマネキンと同じ素材、同じ工法で作られており 彩色によって衣服の布の質感や皮膚の質感を表現しています。髪の毛だけがマネキンのカツラと同じPP糸で、塗装の表現との対比が効果的です。
写真2の作品は楠の木を素材に彫られた木彫で、彩色によって、それぞれの質感を巧みに表現しています。彼は木を素材にした彫刻を多く制作していますが彩色の表現にも強い関心を持っているようです。

fu シリーズ (蒼)(朱)

 写真3はマネキンです。この彩色やカツラはメーク担当の田中藍子さんの協力によるものです。原型はかなりリアルに作られていますが全体を白を基調に、刺青のイラストが効果的で、現代の若者の風俗 世相がリアルに感じられます。似合いそうなファッションのイメージが伝わってくるようです。マネキンの新しい彩色表現の一例と言えるでしょう。
 紙面の都合で僅かな作品の紹介しか出来ませんでしたが、これらの作品には彫刻、マネキン、フィギュアなどの表現、技法がそれぞれに混ざり合って生かされて居り、マネキンの新たな可能性を示唆しているように思います。これからのマネキンが楽しみです。
写真上段より:
 1)中村 道彦 「獏と花婿の行方」
   2009 FRP樹脂、塗料、PP系毛糸、《600×200×100》 写真提供・中村 道彦
 2)野原 邦彦 「Nomi Ho !」
   2007 木(楠)、ガラス、油絵具、合成樹脂塗料、《700×390×280》 写真提供・野原 邦彦
 3)マネキン 「fu シリーズ (蒼)(朱)」
   2008、制作:(株)アップル、原型:中村 道彦、彩色:田中藍子
   FRP樹脂、油彩ラッカー、PP系カツラ、《蒼 180cm朱 1750cm》  撮影・筆者