欠田誠のマネキンの世界
第31話 顔 シンメトリーについて

 人の顔を作る場合 ・実在のモデルを見て作る・写真などの資料を見て作る・イメージした顔を想像で作る、などがあります。どのような方法で作るにしても其の時々に好まれる流行の顔の傾向がありますので、其の特徴を知る事は、自分の好みとは別にマネキン制作では大切な事です。粘土で顔を作るとき、最初の段階でイメージを優先して大まかに粘土を付けた状態の時、案外調子よく出来ていたものが時間をかけて作り込んでいくにしたがって、つまらない作品になってしまう事はよくある事です。それは個々の歪みやバランスの違いが気になってそれを修正しようとする作業が支配的になった時、つまりよりシンメトリーな顔作りに囚われた時に、このような状態を経験する事が多々有ります。人の作品を見るときにも、例えば右の目と左の目の位置のずれとか口の歪みとかが気になってしまいます。

 実際に顔を左右対称に作る事はとても難しいことです。時には寸法を測ってみたり、鏡に映して歪みを確認したり、それでも複雑な顔の形を左右対称に作る事は容易な事ではありません。マネキンは1シリーズ4〜5体を同じ顔で統一して作るのが効果的で一般的な方法ですので同じ顔をいろいろなポーズに使うためには顔を出来るだけ左右対称に作っておけば無難で使いやすいわけです。然し人の動作(ポーズ)と顔の表情は連動しているものです、異なったポーズのボディーに同じ顔を付ける事はリアリティに欠けることであり、表現に限界がある事は否めません。

 事実、人の顔の形は決して左右対称ではありません。マネキン作家は当然人の顔に強い関心をもっています。他にも人体を作る彫刻家やフィギュアの作家や人形作家達は顔の造形についてそれぞれ独自な見識を持っているものです。友人のある人形作家は「良い俳優の顔はシンメトリーにちかい顔をしている」と分析します。同じ役者が異なった年齢や幾つもの役柄を演じるには、あまり個性的で特長のある顔よりも整った美しい顔の方がよいでしょう。所謂、美人といわれる顔です。このような顔は、整った顔、とか、端正な美しさ、知的な美しさ、等と言われる一方、つめたい感じ、表情に乏しい、などと言われます。表情とはシンメトリーを崩す事で生まれる。と言えるでしょうか。今は特長のある顔、個性的な顔を、チャーミング、魅力的などと言って好まれますがマネキンの顔も例外ではありません。

 シンメトリーはボディーにも言える事です、人の体は形や寸法など左右対称ではありません。然しマネキンは出来るだけ正確に対称に作ろうとします。マネキンに着せる服がそのように作られているからです。

 マネキンのボディーを作るときには粘土制作の段階で実際に服を着せて(服を粘土原型に着せられるように服にチャックを付けて分解できるように改造して専用の服を作っています)原型のチェックをします。服を着る正確なボディーを作るための良い方法ですが、作り手の意識や力量次第で、服を着せて原型を修正していくうちに服を着せるボディーのはずが服に着られてしまうつまらないボディーになってしまう事があります。

 良いボディーは服を着せれば服が引き立って魅力あるファッション空間を作り出す力を持っているものです。

 マネキンはファッションを表現するものです。そんな表現力のある良いマネキンの顔やボディーは、必ずしも左右が対称に作られているものでは無いように思います。形の歪さや多少の寸法の違いなどが気にならないほど魅力のほうが勝っている、そんなマネキンだと思うのです。
写真上段より:
 1)モデルの写真を参考にして顔の原型を作る。
 2)FRP 樹脂に成型した原型にメークをする。
 3)モデルの顔をFCR技法(1972年に開発した、目を開いたまま型を取る技法)で型を取った顔の原型。(素材・FRP 樹脂)
 4)FCR技法で型を取った顔の原型を参考にして、スーパーリアルな顔を制作。

 マネキンの顔として、いろいろな方向に向けても使えるように左右を出来るだけ対称に制作した。
 制作・写真 筆者