欠田誠のマネキンの世界
第33話 可動マネキン・マネキンのポーズについて

 マネキンが人間のように自由にポーズを変えることが出来たら便利だろう、とは誰しも考える事でこれまでに多くのマネキンメーカーが可動マネキンを開発して来ました。私も幾種類かの可動マネキンを手掛けてきましたが、特別な場合以外、マネキンとして一般市場で多く使われた例を知りません。今回・特殊な場合・と・マネキンとして・と言う2つの点から可動マネキンと、マネキンのポーズについて考えてみたいと思います。

 特殊な場合とは、同じマネキンでいろいろなポーズを作ってディスプレーすると言うはっきりした目的があり其の目的にあった可動システムを考えてマネキンを作る場合で、二つの異なった制作例について述べてみたいと思います。一つは1975年3月〜5月、京都国立近代美術館で開催された「現代衣装の源流」展のために作られた可動マネキンで、これは、ニューヨークのメトロポリタン美術館で開かれた「インベンティブ・クローズ1909-1939」展(20世紀初頭から第二次世界大戦までの30年余のファッションの変遷を約150点の作品、衣装で紹介する展覧会)を日本でも開催する事になり、そのためのマネキンを七彩が開発する事になり当時七彩の社員だった私はメトロポリタン美術館で開催中の展覧会を見に行く事になりました、この種のマネキンはサイズや様式など時代考証にマッチした原型制作が必要であり更に展覧会企画者のイメージにあった原型を作らなければなりません。これらの衣装を展示するには数多くの(この場合70体以上)ポーズバリエーションに対応する必要があり、そのために新たな可動システムを開発する事になりました。可動システムは展示デザイナーの意図するポーズが簡単に作れ、更に其のポーズが安定して維持できる機構でなくてはなりません。このマネキンの原型制作は京都原形室の高井一彦さんが行い、可動システムの開発は工場のスタッフが担当しました。

 可動マネキンは、このシステムを生かしてよいポーズを作る優れたデザイナーによってはじめて効果が生かされるものです。

 他には、1989年に有楽町アート・フォーラム(有楽町西武・B館)で開催された「パリ祭」のメインイベントとして行われた高田賢三 展のために作られた可動マネキンがあります。このマネキンは人形作家の四谷シモンさんのデザインをトーマネが可動マネキンとして制作、製造したもので、このマネキンは球体関節をそれぞれ可動させる事によって約100体のポーズバリエーションに対応させる事ができるようにつくられたものです。この場合人形作家の作品の特徴を生かした造型で、いかに展覧会の企画に対応したポーズを作る事が出来る可動システムを開発するかが重要なポイントになります。

 このような便利なはずの可動マネキンがどうして一般の市場で・マネキンとして・多く使われないのでしょうか、前にも述べましたがマネキンは使われるために造型の美しさ以外にハード面での制約や条件が沢山あります。マネキンの原型を作る時に、どのようなポーズのマネキンを作るかはとても難しい事であり大いに迷う所です。この大事な作業を使う側に委ねてしまうことは一般市場ではかえって使いにくいマネキンの条件になってしまいます。その他軽くて壊れにくい事、より安価である事など、可動マネキンは造型的な魅力のほか、いろいろな面で一般の市場では・マネキンとして・使いにくい条件が多くあると言わざるを得ません。

掲載の可動マネキンは幾つかのポーズを固定して作りその中から好みのポーズを選んで使ってもらうという新たなシステムのマネキンです。これは実際には可動はしませんがいろいろなポーズの要望に応えられると共にそれぞれに可動の為のジョイントなどをセットする必要が無いので軽くて壊れる事も少なくコスト面でも大きなメリットがあります。
写真:可動マネキン、固定ポーズ展開例
 原型制作・中島ひでこ
 制作、製造・(株)アップル  写真提供・筆者