欠田誠のマネキンの世界
第42話 −顔― 山本幸夫『FACE』展について

 ヤマトマネキン時代(1994年〜2001年)に東京木場のアトリエで原型制作を共にした山本幸夫さんが5月20日(木)から6月17日(木)まで、京都下京区のBAMI galleryで『FACE』展を開催しました。

 マネキンの制作はひときわ人の顔とかかわりの深い仕事です。彫刻家にとって人の顔は大変大きなテーマであり生涯を通して優れた作品をそれほど多くは残せないほど限りなく奥の深いものだと思います。マネキンの世界では、モードの変化や市場の要望に応じて色々な顔を数多く作らなくてはなりません。それはマネキンならではのテーマであり、作家は商品としてのマネキン制作の場で数々の体験を重ね、試行錯誤を繰り返しながら人の顔の造形について自分なりの答えを見つけなくてはなりません。

 山本幸夫さんは(株)ヤマトマネキンで35年間、企業内作家として原型制作に携わり数々のヒット作を造りました。新しい可動のシステムを考案したりマネキン制作の構造的なハードな面でも優れた仕事を残しました。

 2002年にヤマトマネキンを退社し、独立して宇治市に山本工房を設立、ディスプレーの仕事など幅広い造形活動を続けています。多忙な仕事の傍ら人の顔の造形について独自な解釈を模索し続けて来られたようです。

 この度の個展ではギャラリーの真っ白な空間に16体の白い顔を11作品に構成して展示。作品には独自な仕掛けが施され無表情なマスクがライティングの効果と見る位置によって不思議な空間を作り、見る者の想像を駆り立てます。個展『FACE』のDMで山本さんは人の顔の造形に対する想いを語っていますので紹介させていただきます。


以下、山本幸夫 個展『FACE』のDMより

 私が美術高校に入学し、始めての彫塑の課題はベートーベンのデスマスクの模型だった。そのデスマスクを何も考えることなく似せようと模刻していたのを覚えている。それから40年近く。マネキンの造形師としての職に就き、顔造りとは切り離せない環境にあった。そんなせいもあって顔には特別な想いを抱いている。ここ数年前から私は何かを考えたり作りたいと思った時、出発点として人の顔を描いたり粘土で作ったりすることにしている。その制作過程の中、色々な物の見方や発見がある。

 その形の中に光の流れを見つけ影を追うといった作業を繰り返す。“喜”“怒”“哀”“楽”それ以外の感情。複雑な感情が表れては消えていく。そして“無”。たくさん顔を造ってきた今。デスマスクには深い意味があると感じる。それは決して死を表現しているのではなく、あらゆる物から解き放たれた姿なのではないか。むしろ穏やかな眠りの姿のように見える。その人が持っている本来の素顔なのではないだろうか。自分や他人を意識せず感情や表情を抜き取った本来の素顔を造ってみたい。(山本幸夫)
写真上段より:
 1)『FACE』展 会場風景
 2)『三つの顔』正面 右端の顔は立体に見えるが実際はへこんだマイナスの形
 3)『三つの顔』横  プラスの形の顔と、マイナスの形の顔が関連しあって見る位置によって不思議な表情の変化を感じさせる。

 写真・筆者