欠田誠のマネキンの世界
第45話 企業内作家としてマネキンを作る
 特定のマネキン会社に所属せずにフリーの立場で原形制作を行っている造形作家もいますがその人たちもほとんどの作家は、以前マネキン会社で仕事をしていた人達が習得した技術や経験を生かし、後に独立して造形活動を行っている人達です。多くはマネキンの原型だけでなくいろいろな造形の注文に対応しているようです。

 マネキンの仕事は原型作家が粘土で原型を製作してからマネキンが完成するまでに、FRP樹脂の作業に携わる工場の人達の技術、メーキャップの人達の技術、ヘアーデザイナーの人達の技術、などの協力があってマネキンが作られますので、注文に応じて形だけ作る作業ならともかく、オリジナルなマネキンを開発する為には、いろいろな部門の人たちと協力し合える環境が不可欠だと思っています。私は今日までずっと企業内作家の立場でマネキン制作を続けてきました。ずいぶん長い間、組織の中の一員としてサラリーマン生活を続けてきた事になりますが、会社は5社ほど替わりましたのでその都度、新しい環境といろいろな技術者たちとの出会いがあり、常に刺激的で新鮮な気持ちで過ごす事が出来たと思っています。

 同じマネキンを作る仕事であっても企業にはそれぞれ異なった歴史があります。ターゲットとしてきた市場の違いもあり、それぞれ得意な分野があります。それぞれのメーカーには先人が築いてきた独自の技術があり、其処に私の経験、技術や思考が加わる事によって新たなマネキン〈商品〉が開発され新しい歴史が刻まれていくという体験をしてきました。作家の作る作品が企業の顔になりそれが企業のレベルとなりますので、企業のなかで優秀なクリエーターが育つということはとても重要な事です。マネキン会社では原型の仕事は美術学校で彫刻科を学んだ人達が、彩色の仕事は美術学校で洋画や日本画を学んだ人達が行っているのが一般的ですが、日本の美術学校ではマネキンの技術を実際に学ぶ事はありませんので、彼らはマネキン会社に就職してから、マネキンの世界を知り技術を学ぶ事になります。それだけに良い指導者や仲間と出会うことはても重要であり、更にマネキン作家として成長する為には良いクライアント、顧客に恵まれる事も重要な事です。近年は特に別注によるマネキン制作が多くなっています。作家はクライアントによって育てられる部分がとても多いと思っています。今日では各マネキン会社のコレクションの現状や会社の概要などはインターネットである程度知る事ができますが、特にマネキン制作については実際に体験してみなければ分からないものです。

 美術学校で彫刻を学んだ人達がマネキン制作を始めるきっかけはいろいろあると思いますが、リアルな彫刻が得意だからといって良いマネキンが作れるわけではなく彫刻家としての才能の上に時代の好みに対する鋭いセンスが加わらなくては良いマネキンは作れません。マネキンは所謂人体彫刻とは違った独自な造形だと思います。企業が原型作家を採用する場合、その人が作った彫刻作品を見て判断することになりますが、マネキン作家として適しているかどうかを見極める事はとても難しい事です、私はその人のやる気と人柄を重視する事にしています。企業内作家としての適正を判断する手がかりになります。とは言えアートを志す者は強い個性と自由に対する強い憧れを持った人達であることはマネキン作家も同じです。組織や面倒な規則に与さないものです。事実、組織の中でいろいろな問題に直面しながらより良い関係を模索しているのが現実ではないでしょうか。良い会社は組織がしっかりしておりその組織が機能している会社だと思っています。組織にはその会社のマネキン開発に対する意向が表れているものです。

 次回は、企業内作家のあり方、問題点などについて、体験を通して私の思いを述べてみたいと思います。