欠田誠のマネキンの世界
第49話 マネキンの生産に伴う所見
 今年は過去最大の就職難の年で、大卒者にとって就職氷河期といわれています。大手の企業に就職希望者が集中し、一方で、中小企業には人が集まらない求人難というミスマッチな現象が起きているようです。2008年9月にアメリカの大手投資銀行の破綻が引き金となった世界同時不況、所謂リーマンショック当初は「大企業でも安心出来ない、これからはベンチャービジネスの時代だ」と言われたものですが、現実はここ数年の間に大手企業と中小企業との格差がずいぶん大きくなってしまったようです。特に技術力を誇る日本の製造業は深刻なようです。従業員300人以下の企業を中小企業と分類するそうですが、マネキン企業はすべて中小企業ということになります、然し、マネキンの企業は本来デザイン集団であり、マネキンの生産は職人の手仕事による造形力、技術力が商品になる仕事であり正にベンチャービジネスの最たるもので、特に個性化、他との差別化の進む市場に対応していくためにもマネキンの企業は大企業化には適さないものです。それが特長であり魅力でもあります。今、日本の製造業が抱える大きな問題は製造の現場が中国など海外に移りつつあることで、同時に貴重な技術がどんどん海外に流失している事です。其れはマネキン界にも当てはまることです。日本のマネキン企業は韓国や中国のマネキン会社への技術指導を積極的に行い海外に生産体制を作りマネキンの生産コストを下げる努力をしてきました。然し海外生産は「安かろう、悪かろう」と言われ評判はよくありませんでした。品質、価格、納期など課題は多くありましたが、今日ではかなりの部分をクリアし、むしろ日本国内の生産工場の活力が問われる現状に、私は、マネキン産業の構造的な問題意識を強くしています。日本のマネキンの技術は世界で高く評価されています。優れた技術者も多く居ます。メードインジャパンの誇りを失いたく無いものです。日本の文化に世界の注目が集まっているのも事実です。

 今、中国のマネキン会社では世界のマネキンの生産を行い、とても活気があるようです、彼らは日本の技術者から技術を学びました。現在日本からの受注は欧米に比べて決して多くはありませんし、更に、品質の管理が厳しく日本は商売的には易しい相手では無いそうですが、製品に高い完成度を求められるだけに技術を学ぶためには、とても大切な相手だと言うことです。もの作りに対するひたむきで貪欲な姿勢が感じられます。

 日本におけるマネキン企業の生産体制の推移を辿ってみると今日のいろいろな問題点が見えてくるように思います。当初マネキンの生産は自工場で行っていました。原型の制作から製品の完成まで、それぞれの技術者が工法や素材の研究開発を行い企業独自のマネキン製作を競ってきました。やがて技術を習得した技術者達が独立して生産の一部を請け負うようになり企業は徐々に外注体制を整え、自工場は量産から離れた研究開発的な内容の作業を多く手掛けるようになりました。外注工場は元の会社で習得した技術、ノウハウを生かして専属の協力工場として機能し、それぞれの協力工場が得意な分野を生かし生産を分担してきました。

 話しは飛びますが、マネキンの需要は市場の動向に敏感に左右されるもので、時代が変わり需要の変動が激しくなると共にマネキンの生産はより多品種少量生産の時代となり更に変化の時代を迎え安定した生産計画が立てにくく見込生産は大きなリスクを伴う 生産工場にはとても厳しい時代になります。協力工場も一社だけの生産に拘泥し続けるわけにはいかず存続をかけて他社の生産も積極的に行うようになりました。これは生産工場の視野を広げ技術の向上に繋がることでもありますが、このような生産のグローバル化は各マネキン企業が独自に培ってきた技術や生産の企業機密などがオープンになる事でもあり、企業は新たな意識改革や構造改革を迫られることでもあります。オリジナリティーの尊厳、付加価値に対する認識を新たに、強い意識を持って日本のマネキン界が新たなパワーとなり更に大きなテーマに挑戦する機会でもあると言えるでしょう。 企業の独自性は尊重されなくてはならないし当然企業機密は護られなくてはなりません。原型作家は世界市場を視野に原型制作をしなければなりませんが作家はその企業の発展の為に創作活動に努め貢献しなければならない事は言うまでもありません。