欠田誠のマネキンの世界
第54話 マネキン制作で思うこと
○顔を作る

 マネキンを作り始めてから半世紀を過ぎる今日まで、いろいろな顔を数多く作ってきました具象的な顔や抽象的な顔などさまざまでした。これらの顔が常に市場で一般の大衆とふれあい、大衆の中で在ることが私の制作意欲を駆り立ててきたように思います。いろいろな顔を作る(作らなければならない)と言うのはマネキンの世界ならではのことですが、だからと言って同じ作家が器用にいろいろな顔を作り分けられるものではありません。

 街に出れば特に意識しなくても店のディスプレーやマネキンが気になってしまい、そこで自分なりにマネキンのテーマが生まれ、いつもそんな意識で女性を観察しモデル探しをしている自分に気付かされます。顔に限って言えば、マネキンの顔は特定のモデルの顔を作るのではなく、その時代の好む顔を生み出していく作業です。実際には存在しない新しい顔を創造することであり、ある意味ではマネキンの顔つくりは抽象的な作業とも言えると思います。其れは長年マネキンの世界で生きてきた私の顔の造形に対する考えであって、所謂、人体彫刻、肖像彫刻とは違ったものだと思います。私にとって顔の制作は新しい表現の可能性を探る実験の場でもあります。アトリエにはそんな思いで制作した顔がいくつも有ります。作り始めるとまた新しいテーマが生まれるので未完成の作品がアトリエに増えていくことになります。

○まがい物つくりに適したFRP樹脂

 今、世界のマネキンはごく特殊なもの以外FRP樹脂で作られています。FRP樹脂は軽くて丈夫で成型もしやすく、塗装が容易であるなどマネキンにはとても適した素材です。これほど多くの違った場所や条件で使われる造形物が同じ素材で作られている物はマネキン以外に見当たらないのでは無いでしょうか? FRP樹脂は木や金属などのように物の素材感を持たず、成型物に塗装することで木のようにも鉄のようにも陶器のようにも石のようにも見せることが出来る、まがい物つくりに極めて適した素材なのです。

 マネキンがFRP樹脂で作られることが当たり前の常識となり、かつてファイバーマネキンがFRP樹脂に変わった あの時の驚き、感動など、今はありません。私たち原型作家にとって、其処にマネキン造形の危険な落とし穴が有るように思えてなりません。

 私はFRP樹脂の開発にかかわりマネキンのFRP化を積極的に進めてきました。近年私は造形作家が実在の素材で造形することの大切さを感じています。

 私は今、実在の素材を使いその組み合わせで顔の制作を試みています。実在の素材を体感しながら作り、発見していくことが重要だと思っています。FRP樹脂という便利な素材で、まがい物つくりに馴染むことで気づかぬ間に、ものの見方、思考までもがそのように犯されている自分を感じます。元来、彫刻家は素材で見、思考するよう訓練されそのような能力を持っているものです。

 マネキンがFRP樹脂という万能とも言える簡便な素材に依存しマネキンサイズと言う制約に安住して理想の体形を作り続けてきたことは、マネキン造形の魅力、マネキンのリアリティを失うことに繋がるということに原型作家は気づかなければならないと思うのです。これからもマネキンはFRP樹脂で作り続けられるでしょう。それだけに原型作家はまがい物つくり症候群にならないように素材と付き合っていくことが大切だと思います。