欠田誠のマネキンの世界
第56話 FATの木彫マネキンについて

   東京のラフォーレ原宿にあるメンズファッションの専門店FATに木を彫って作られた紳士マネキンが登場したのは今年1月のことでした。このマネキンを作ったのは京都府宇治市に山本工房を持って造形活動を行っている造形作家 山本幸夫さん(62)です。山本さんとはかつて(1990年〜99)同じマネキン会社の東京のアトリエで原形制作を共にした仲間です。彼はとても器用な作家で、木工の技術もプロ級でしたので彼から木を彫ってマネキンを作っている話を聞いた時にも特に違和感はありませんでした。とは言え木彫家でも並みの技術では木でマネキンを彫ることは出来るものではありません。

 1月29日にこのマネキンのセッティングの為に上京した彼と会って、夜、完成祝いの酒を飲みながら長引く不況から少し元気を取り戻しつつあったディスプレイのこれからについて語り合ったものでしたが、それから2ヶ月も過ぎない3月11日、東日本大震災が発生し事態は一変しました。原発事故による節電などでディスプレイどころではないといった自粛ムードが街を覆いました。

 しかしFATと山本さんとのコンビは、それからも精力的にオリジナルマネキンの制作を続け7月11日、新たに2体の木彫マネキンをラフォーレ原宿店のために完成させました。さらに8月6日には南青山にFATの新店舗がオープンしました。この新店舗のウインドウには山本さんがこの店のために制作した、紳士マネキンがディスプレイされています。このマネキンは服地から選んだソフトな素材(ファブリック)で覆って作られており衣装とのマッティングが効果的です。私はオープンの日に山本さんと一緒に新店舗を訪ねました。FATのデザインチームの方から商品開発の詳しい話をうかがい、FATの、もの作りに対する思想が店のディスプレイ、マネキンの開発まで一貫して繋がっていることを感じました。日本の地方で根強く生きている伝統的な手作りの良さ、こだわりの技を積極的に生かした新しいファッションの創作にオリジナルで新鮮な魅力を感じます。

 災害後のこのような時期に、店のオリジナルマネキンを作って新店舗をオープンさせることは、確かなビジョンとさらにとても勇気のいることです。訪れた多くの若い人たちに共感されている様子をまのあたりにして、常にチャレンジする精神、クリエイティブであり続けることの大切さをあらためて感じています。

 ここで木彫マネキンを紹介し、マネキンの役割と可能性について検証してみたいと思います。

 木彫マネキンの制作はサイズと体形の見直しから始められたようです。そのために店の男性をモデルに体をそのまま型取りをしてそれをサンプルに木彫で形を作り、マネキンは胸から上の部分と、腕、手先、足は太ももから先が木で出来ており、胴の一部はFRP樹脂で作り、それぞれが金具で取り外し可能なようにセットされています。これで重さは30キロほどに作られているそうですが従来のマネキンと比べればかなりの重さです。マネキンを立てる台は鉄板で、頑丈に作られています。一般に市場で数多く使われているマネキンはFRP樹脂で作られておりマネキンは塗装をすることによって、木のようにも金属のようにも石のようにも見せることが出来ますので、そのようなマネキンを見慣れた人たちにはFATのマネキンが木で作られていることに気づかないかもしれません。木という材質のよさを本当に体感出来るのは、日々マネキンに服を着せ替えたりしてマネキンに接する店のスタッフの人たちでしょう。実はこれはとても重要なことなのです。その体験の積み重ねから店が扱う商品の理解が深まり、愛着が生まれ接客が変わり店が変わる。少し気をつけて見ると、木彫マネキンに限らず、良い店には良いマネキンが使われていることに気付きます。通常マネキンはとても軽く扱いやすく作られています。またFRP樹脂製のマネキンは前述しましたが塗装することで多様な演出が可能です。これはマネキンが市場のいろいろな場面で使われ、商品として、より多く使われるように意図して作られているのですが、この場合、あまりキャラクター性の強いマネキンは好まれないようです。

 マネキンを店のVMDのより重要なツールと位置づけ、専門店のようにそのマネキンの使い方、役割が非常に鮮明で限定されているならば、従来のマネキンの常識にとらわれず、その目的にあった独自なマネキンを作ることが可能になると思います。

 FATのマネキンにそのサンプルを見る思いがします。今後このような指向はよりいっそう高まっていくだろうと私は考えています。
写真上段より:
 1)ファブリック マネキン(部分)
 2)3)木彫マネキン(部分)

 原型制作・写真提供  山本幸夫