欠田誠のマネキンの世界
第75話 FRP樹脂 素材と造形

 FRP樹脂という素材は彫刻やマネキンの造形に対する私の考えを新たにするきっかけになりました。ファイバー製マネキンの時代には作る事ができなかったいろいろなディスプレイの為の造形物の制作が可能になりました。マネキンの企業はFRP樹脂の加工技術とデザイン力を活かして新たに店舗の設計や施工の分野に積極的に参加し企業を拡大していきました。それはバブル期にピークを迎えました。そのような情況の中で、地道な開発と、行き届いたメンテナンスや技術販売が基本になるマネキンの部門は企業内でどちらかと言えば軽視される傾向に有ったと言えます。バブルの崩壊後のマネキン業界ではメーカーの原点に戻って本業のマネキンを見直そうという動きが盛んですがそれは容易な事ではありません。

 制作の素材としてFRP樹脂は、軽くて、丈夫で、耐水性も良く、極めて正確に形が成型できて、しかも価格が比較的安いなど、とても都合の良い素材です。今日、FRP製品は様々な産業の基本素材として私達の生活のあらゆる場で使われています。

 その後、環境に対する意識の高まりと共に生産工場の環境やFRP製品の破棄による環境問題など幾つかの課題を改善しながら今日に至っています。

 FRP樹脂でマネキンの他にディスプレイの為のいろいろなオブジェなどを作りました。写真1)はその一例です。形やサイズにとてもシビアな人体ボディの開発にはFRP樹脂は正に適した素材であり、市場でのマネキンボディの普及はFRP樹脂なくしては考えられないことです。

 彫刻の素材としてFRP樹脂は石や木や鉄など実在の素材の持つ魅力とは異なり、あくまでも加工に便利な材料というイメージが強く、それは大衆的な素材の魅力とでも言えばよいでしょうか、なんとなく軽やかでポップな感じがします。FRPが造形の可能性を広げ現代美術に大きな影響を与えた事は事実です。

 私が始めてFRP樹脂を知ったときはとても感動的で新鮮な驚きを感じたものでした。透明な樹脂を型に注型してガラスのような作品を作ることも出来ました。増量剤(タルク)や増粘剤(エロジール)を加えるとヘラで厚みを付けることが出来ます。硬化剤(パーメック)、硬貨促進剤(コバルト溶液)を加減する事によって樹脂の硬化する時間を調節する事ができます。

 写真2の作品は、我流ですがFRP樹脂を粘土状にして、針金で作った心棒にヘラで直付けをする方法で制作したものです。従来このような作品は石膏の直付けで作った原型を(石膏は壊れやすいので)ブロンズに置き換える方法で実在の作品にするというのが一般的な方法でした。

私はFRP樹脂の使い方を試しながら試作を続けているうちに新たな発想が生まれ、セメントを素材に追求してきたテーマから開放され、自分の作品が大きく変わるきっかけになりました。マネキン会社ではファッションの業界ばかりでなくいろいろなデザインや製造にかかわる企業の技術者との交流がありますので新しい素材や工法などを学ぶ機会も多く、私には恵まれた環境だったと思っています。
写真上段より:
 1)DA-1高さ600 素材=樹脂1962年 原型制作 欠田 誠
   DA-2高さ600 素材=樹脂1962年 原型制作 欠田 誠
   写真・説明1)は七彩工芸カタログより抜粋
 2)1960年 『エスキース』ポリエステル樹脂
   ヘラのタッチを残しながらが樹脂特有の質感が得られた。
 写真・筆者