欠田誠のマネキンの世界
第81話 人体彫刻とマネキン

 人体を表現するという意味ではマネキンは人体彫刻の1分野ですが、大きな違いといえば、マネキンは服を着せて使われるために有るということでしょうか。衣装を美しく着こなす商品として、マネキンの造形には細かい部分までサイズなど多くの制約があります。マネキンのカタログにはそのマネキンの身長、バスト、ウエスト、ヒップのサイズが記されています。実際に作る場合にはさらに細部にいたる寸法の確認が必要です。掲載したサイズ表は私が或る婦人服売り場のために制作したマネキンのサイズ資料です。
 リアルな人体彫刻を得意とする彫刻家がマネキンの原形制作を手掛けるのが一般的ですが人体彫刻は個々のサイズに惑わされることはありませんのでマネキン制作では先ずこのサイズの制約に戸惑うようです。
 彫刻には石や木や金属やテラコッタなどいろいろな素材がありますがマネキンはFRP樹脂が現在最も適した素材として使われています。これらを全て造形の制約と思うか、造形上のテーマ、課題として受け止めるかよってマネキンに対する思いはかなり違ったものになります。

 私は制約や約束事の多い造形に、むしろ作家の個性や力量が現れると思っています。マネキンは匿名性の高いものではありますが少し注意深く見れば制作者がわかるほど作家の癖や特徴が表れるものです。
 マネキンの制作は流行や時代の好みを先取りして常に昨日と違った変化、新たなものが求められ、たとえ評判の良かったものであっても繰り返しの許されない世界です。常に今日とは違った新しい表現を探し追い求めて来たように思います。流行は変わるけれど人の体型やサイズは簡単に変わるものではありません。しかし人の体はサイズが同じであっても形はそれぞれで、体型は生活や年齢によっても変わります。あえて言えばこの微妙な違い、バランスの表現がオリジナルなマネキン創作のポイントになると言えるでしょう。
 最も表現の可能性があるのは顔の造形です。顔はそのマネキンの年齢感や性格、オリジナル性、更に品格が現れる最も重要な部分です。しかもかなり自由な表現が可能です。マネキンの顔の造形は、いわゆる肖像彫刻の世界より自由な表現が可能ではないかと思います。マネキンの顔は特定のモデルの顔を似せて作るものではありません。イメージで新しい顔を作る楽しさがあります。
 近年、市場ではリアルな顔のマネキンが少なくなって卵形の様な一様に抽象的な顔のマネキンが主流になっています。以前のようにマネキンを見て作者を判別することが難しくなりました。マネキンが極端に街から姿を消したバブル崩壊の不況時とは事情が違いますので、かつて言われた・マネキン冬の時代・とは言えませんが「今、マネキンが面白い!!」といえる熱い時代ではないようです。

 しかし最近街で新しいマネキンを見かける事が増えてきたように思います。楽しいディスプレイと出会うことも多くなりました。マネキンの新しい時代を予感しています。


写真上段より:
 1)マネキン原形制作のためのサイズ資料。これは婦人普通サイズ(9号)のための マネキンサイズ。他にジュニアやミセスなどに対応したマネキンサイズがある
 2)原形制作にかかる前にミニチュアを作ってポーズなどを検討する。ミニチュアは実作の4分の1のサイズで正確なバランスで作る。ミニチュアは油土(固まらない粘土)で作り原形制作が終わればミニチュアの役は終わり型を取ってミニチュアを作品として残すことはあまりしない。
写真撮影・筆者