欠田誠のマネキンの世界
第93話 マネキンの企業が手掛けた工芸品 パートⅡ

七彩工芸 展示会の記念品1974年。ポリエステル 14×14 制作 村井浩

マネキン会社が毎年主だった都市を巡回して、新作マネキンの展示会を開催していた頃(1950年〜70年中頃)、展示会に招待した顧客の方々にノベルティとして製作した作品を贈呈していた話を、私が勤務していた七彩工芸(現・七彩)の例を主に前回、紹介しました。七彩に集まった現代美術を代表する陶芸家や彫刻家が製作する作品を毎回楽しみに、コレクションしている人もいたようです。
今回はそんな作品(ノベルティ)にまつわる逸話を紹介したいと思います。
1974年、七彩展示会の記念品はデザイン室に勤務していた彫刻家の村井浩さん(1936年〜)行動美術会員が制作したもので、りんごを縦半分に切ったその切断面を形取り、樹脂で成形した作品です。(写真1参照)
日頃、何気なく見過ごしていたリンゴの切断面を改めて見直してみると、それは自然が作った、なんとも不思議でユーモラスな形であることが分かります。そんな形を樹 脂で制作した作品は発想がユニークで楽しい作品だったと思います。
彫刻家の堀内正和さん((1911〜2001)日本を代表する抽象彫刻家1950年より京都芸術大学教授)はこの記念品を2個上下に並べた作品(写真2参照)を作り、京都・ギャラリー16の「コラージュとフロッタージュ」展で発表しました。この作品は先生もお気に入りの作品だったようで作品集に度々掲載紹介されています。河出書房新社が1978年に出版した(アート・テクニック・ナウ10)堀内正和の彫刻で紹介されたこの作品「アップルカップル」について「七彩工芸がお中元だかお歳暮だかに、合成樹脂製リンゴ切断片を送ってくれた。どう間違ったのか同じものを2度送ってきたので、その1つに木で柄を継ぎ足して作った。京都のギャラリー16の「コラージュとフロッタージュ」展に出品した。この上に紙を置いて鉛筆の粉でこすると、モラッタージュのコラージュのフロッタージュが出来る。アップルカップルは洋名。本命はおりんごっこ」と作者の解説が添えられています。

アップルカップル  1976年 ポリエステル 46×56.5 製作 堀内正和

このリンゴの作品には更に後日談があります。京都芸大で堀内先生の指導を受けた、東京近郊に在住の有志が東京原宿の堀内先生のお宅・アトリエに集まって交流する会を年に数回行っていました。先生ご夫妻は若い連中と酒を飲むこの集まりを楽しみにしておられ、この交流会は先生が91歳で亡くなられてからも奥さんを囲んでしばらく続けられました。
堀内先生が88歳になられた年にみんなで米寿のお祝いをしようという事になり、伊豆の先生の別荘を会場に集う事になりました。京都からも出席希望者がいてかなりの人数になりました。当日出席者には堀内先生作の版画を記念に配る案を提案し、先生に了解いただきました。そこは発注芸術で知られる堀内正和先生のこと、我々が提案して先生の了解を得た作品を制作、更に承認された作品に先生がサインをして完成という方法で制作しました。作品のアイデアは、先生のリンゴ2個の作品に更にリンゴ2個を加え、4つのリンゴを十の模様にそれぞれ配置、米寿の米の字に見立てた図柄の版画です。制作は同期の図案科(現・デザイン科)卒のデザイナー岡田宏三さんが担当しました。無事に堀内先生のサインを得て米寿のお祝いに集まった人達に記念品として配ることが出来ました。思いで深いこの版画を現在私は所蔵していませんので今回写真で紹介することが出来ず残念です。岡田宏三さんに頼めばいつでも刷ってもらえると思いつつ岡田広三さんは今年(2017年)4月亡くなりました82歳でした。
岡田さんは建築設計デザインが専門でしたが彫刻にも興味を持って団体展(モダンアート展)に彫刻を出品していた時期がありました。彼は堀内正和さんの代表的な彫刻を3点所蔵していました。図案科志望の学生時代、堀内先生に彫刻の指導を受けたわけでは有りませんが堀内先生をとても尊敬していたようです。
作者の手を離れた作品が独り歩きをして思いがけない展開を見せる事はよくあることだと思います。
写真上段より
 1)七彩工芸 展示会の記念品1974年。ポリエステル 14×14 制作 村井浩
 2)アップルカップル  1976年 ポリエステル 46×56.5 製作 堀内正和
写真提供 筆者